「任せたはずなのに、なぜ毎回確認が必要なんだ」
金曜の夕方、工場長のメールボックスには23件の承認依頼が溜まっていた。
「これ、先週も同じ判断したよね?」
画面を見ながら、ため息をつく。ベトナム人マネージャーに「任せている」はずの案件が、なぜか毎回自分のところに戻ってくる。
ホーチミン郊外の製造業D社。従業員約200名。日本人駐在員は3名。「現地化を進めたい」と言いながら、実態は駐在員がボトルネックになっていた——そんな会社の話です。
なぜ「任せた」が機能しなかったのか
「私がいなくても回る組織にしたい」
そう考えて、ベトナム人マネージャーのミンさんに生産管理の判断を任せた。
ところが3ヶ月経っても、ミンさんは毎日のように確認を求めてくる。
「この発注、進めていいですか?」
「この不良品、どう処理しますか?」
「お客様からクレームが来たんですが……」
田中さんは次第に苛立ちを感じ始めます。
「なんで自分で判断しないんだ。任せてるって言ったのに」
ある日、GOENが現場ヒアリングに入ったとき、ミンさんはこう言いました。
「任せてもらっているのは分かります。でも、判断の基準が分からないんです。
田中さんがOKを出す案件と、NGを出す案件の違いが見えない。だから怖くて確認するしかない」
これが「任せているようで任せていない」状態の正体でした。
権限は渡した。でも「判断基準」は渡していない。結果として、
ミンさんは「田中さんの頭の中にある正解」を毎回確認するしかなかったのです。
GOENが提案した「判断基準の言語化」
私たちGOENは、D社に対して一つのことだけを提案しました。
「田中さんの頭の中にある判断基準を、ミンさんと一緒に言葉にしてください」
具体的には、過去3ヶ月の承認案件を50件ピックアップ。
田中さんとミンさんが一緒に「なぜOKだったのか」「なぜNGだったのか」を一件ずつ振り返りました。
すると、田中さん自身も気づいていなかったパターンが見えてきた。
・金額10万円以下の発注 → 品質に問題なければOK
・納期3日以内の変更 → 顧客影響を確認してからOK
・不良率0.5%以下 → 現場判断で処理OK
「こういうルールだったんですね」とミンさん。
「いや、俺も言葉にしたの初めてだよ」と田中さん。
これがGOENの言う「現地化の本質」です。日本のやり方をベトナム語に翻訳するのではない。
現地スタッフが自律的に動ける状態をつくること。そのためには、暗黙知を言語化する作業が不可欠なのです。
3ヶ月後、何が変わったか
数字の変化:
・田中さんへの承認依頼:1日平均12件 → 3件に減少
・ミンさんの自己判断案件:月20件 → 月85件に増加
・田中さんの残業時間:月40時間 → 月15時間に削減
もっと大きな変化:
ある日、ミンさんが自分で判断した案件について、田中さんに報告しました。
「この不良品、ルール通りなら現場処理OKでした。でも今回は原因が新しいパターンだったので、田中さんに相談すべきだと思いました」
田中さんは驚きました。ミンさんが「判断できる案件」と「相談すべき案件」を自分で区別できるようになっていたのです。
これがGOENの言う成長の第2層(メタ認知の獲得)です。「できる」だけでなく
「なぜできるか」を理解している状態。この層まで到達すると、応用が効くようになる。
田中さんは言いました。
「正直、最初は『なんでこんな当たり前のことを言葉にしなきゃいけないんだ』と思った。
でも、当たり前のことほど言葉にしていなかった。それが全部、俺のところに仕事が戻ってくる原因だったんだな」
明日からできる第一歩
もし「任せているようで任せていない」と感じているなら、まずこれだけやってみてください。
1週間分の承認案件を振り返る
今週、あなたが「OK」を出した案件を5つ選んでください。そして、こう自問してみる。
「なぜOKだったのか?」
「どんな条件が揃っていたからOKだったのか?」
「それをベトナム人スタッフに説明できるか?」
説明できないなら、それは「判断基準がない」のではなく「言語化されていない」だけです。
GOENの支援では、この言語化作業を現場のベトナム人スタッフと一緒に行います。一緒にやることで、基準の「なぜ」まで共有できる。それが、本当の意味での「任せる」につながるのです。
よくある質問
Q1. 判断基準を言語化すると、柔軟性がなくなりませんか?
A1. 逆です。基準があるからこそ「この案件は基準外だから相談しよう」という判断ができるようになります。
基準がないと、全件確認するか、全件スルーするかの二択になり、むしろ柔軟性が失われます。
D社のミンさんも「ルールがあるから、例外が見えるようになった」と言っていました。
Q2. ベトナム人スタッフは細かいルールを嫌がりませんか?
A2. ルールを「縛り」ではなく「判断の道具」として伝えれば、むしろ歓迎されます。
D社では「このルールがあれば、私も自信を持って判断できる」という声が上がりました。
嫌がられるのは「なぜこのルールなのか」が説明されない押し付けです。
GOENでは、在越日系企業の人材育成・現地化推進を専門にサポートしています。
「うちの現場を見てほしい」「まず話だけ聞きたい」——どちらでも大歓迎です。
まずは無料相談からどうぞ。▶ https://goen-business.com/ja/contact-us/