【ベトナム現地化コラム】「任せているようで任せていない」を脱したD社の変化

06-06-2026

「任せたはずなのに、なぜ毎回確認が必要なんだ」

金曜の夕方、工場長のメールボックスには23件の承認依頼が溜まっていた。

「これ、先週も同じ判断したよね?」

画面を見ながら、ため息をつく。ベトナム人マネージャーに「任せている」はずの案件が、なぜか毎回自分のところに戻ってくる。

ホーチミン郊外の製造業D社。従業員約200名。日本人駐在員は3名。「現地化を進めたい」と言いながら、実態は駐在員がボトルネックになっていた——そんな会社の話です。

なぜ「任せた」が機能しなかったのか

D社の工場長・田中さん(仮名)は、赴任当初から「権限委譲」を意識していました。

「私がいなくても回る組織にしたい」

そう考えて、ベトナム人マネージャーのミンさんに生産管理の判断を任せた。

ところが3ヶ月経っても、ミンさんは毎日のように確認を求めてくる。

「この発注、進めていいですか?」

「この不良品、どう処理しますか?」

「お客様からクレームが来たんですが……」

田中さんは次第に苛立ちを感じ始めます。

「なんで自分で判断しないんだ。任せてるって言ったのに」

ある日、GOENが現場ヒアリングに入ったとき、ミンさんはこう言いました。

「任せてもらっているのは分かります。でも、判断の基準が分からないんです。
田中さんがOKを出す案件と、NGを出す案件の違いが見えない。だから怖くて確認するしかない」

これが「任せているようで任せていない」状態の正体でした。

権限は渡した。でも「判断基準」は渡していない。結果として、
ミンさんは「田中さんの頭の中にある正解」を毎回確認するしかなかったのです。

GOENが提案した「判断基準の言語化」

私たちGOENは、D社に対して一つのことだけを提案しました。

「田中さんの頭の中にある判断基準を、ミンさんと一緒に言葉にしてください」

具体的には、過去3ヶ月の承認案件を50件ピックアップ。
田中さんとミンさんが一緒に「なぜOKだったのか」「なぜNGだったのか」を一件ずつ振り返りました。

すると、田中さん自身も気づいていなかったパターンが見えてきた。

・金額10万円以下の発注 → 品質に問題なければOK

・納期3日以内の変更 → 顧客影響を確認してからOK

・不良率0.5%以下 → 現場判断で処理OK

「こういうルールだったんですね」とミンさん。

「いや、俺も言葉にしたの初めてだよ」と田中さん。

これがGOENの言う「現地化の本質」です。日本のやり方をベトナム語に翻訳するのではない。
現地スタッフが自律的に動ける状態をつくること。そのためには、暗黙知を言語化する作業が不可欠なのです。

3ヶ月後、何が変わったか

判断基準を言語化してから3ヶ月。D社では明確な変化が起きました。

数字の変化:

・田中さんへの承認依頼:1日平均12件 → 3件に減少

・ミンさんの自己判断案件:月20件 → 月85件に増加

・田中さんの残業時間:月40時間 → 月15時間に削減

もっと大きな変化:

ある日、ミンさんが自分で判断した案件について、田中さんに報告しました。

「この不良品、ルール通りなら現場処理OKでした。でも今回は原因が新しいパターンだったので、田中さんに相談すべきだと思いました」

田中さんは驚きました。ミンさんが「判断できる案件」と「相談すべき案件」を自分で区別できるようになっていたのです。

これがGOENの言う成長の第2層(メタ認知の獲得)です。「できる」だけでなく
「なぜできるか」を理解している状態。この層まで到達すると、応用が効くようになる。

田中さんは言いました。

「正直、最初は『なんでこんな当たり前のことを言葉にしなきゃいけないんだ』と思った。
でも、当たり前のことほど言葉にしていなかった。それが全部、俺のところに仕事が戻ってくる原因だったんだな」

明日からできる第一歩

もし「任せているようで任せていない」と感じているなら、まずこれだけやってみてください。

1週間分の承認案件を振り返る

今週、あなたが「OK」を出した案件を5つ選んでください。そして、こう自問してみる。

「なぜOKだったのか?」

「どんな条件が揃っていたからOKだったのか?」

「それをベトナム人スタッフに説明できるか?」

説明できないなら、それは「判断基準がない」のではなく「言語化されていない」だけです。

GOENの支援では、この言語化作業を現場のベトナム人スタッフと一緒に行います。一緒にやることで、基準の「なぜ」まで共有できる。それが、本当の意味での「任せる」につながるのです。

よくある質問

Q1. 判断基準を言語化すると、柔軟性がなくなりませんか?

A1. 逆です。基準があるからこそ「この案件は基準外だから相談しよう」という判断ができるようになります。
基準がないと、全件確認するか、全件スルーするかの二択になり、むしろ柔軟性が失われます。
D社のミンさんも「ルールがあるから、例外が見えるようになった」と言っていました。

Q2. ベトナム人スタッフは細かいルールを嫌がりませんか?

A2. ルールを「縛り」ではなく「判断の道具」として伝えれば、むしろ歓迎されます。
D社では「このルールがあれば、私も自信を持って判断できる」という声が上がりました。
嫌がられるのは「なぜこのルールなのか」が説明されない押し付けです。


GOENでは、在越日系企業の人材育成・現地化推進を専門にサポートしています。
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