【ベトナム現地化コラム】研修で終わらせない製造業A社の3年間|ベトナム人材育成

07-11-2026

「また研修か」——あの空気を、どう変えたのか

「今年も研修やりましょう」と人事部長が言った瞬間、現場のベトナム人リーダーたちの目が一瞬曇った。

ある製造業の日系企業A社。年に1回、外部講師を呼んでリーダー研修を実施していた。毎回アンケートの満足度は高い。でも、3ヶ月後には何も変わっていない。駐在員が帰任するたびに、また同じ問題が繰り返される。

「研修はやっている。でも、組織は変わらない」

この状態が5年続いていた。

問題の本質:ベトナムでの研修が「イベント」になっていた

A社の研修を初めて見学したとき、すぐに気づいたことがある。

参加者は真剣にメモを取っている。講師の話にうなずいている。でも、研修が終わった瞬間、ある班長がこう言った。

「今日の内容、明日からどうやって使えばいいですか?」

隣のベテラン班長が苦笑いで答えた。「まあ、いつものことだよ。聞いて終わり」

これがA社の「研修文化」だった。

研修で学んだことを現場で試す機会がない。試しても、誰もフィードバックしない。気づいたら、次の研修の案内が来る。
この繰り返しが「研修=イベント」という認識を固定化していた。

GOENの視点で言えば、「成長の3層」のうち、第1層(行動の変化)すら定着していない状態。「できるようになった」ではなく「聞いた」で終わっていた。

GOENの視点:「ベトナムで育つ文化」をつくる3年計画

A社の社長と最初に話したとき、こう伝えた。

「1回の研修で変わる組織は、ほぼありません。でも、3年あれば文化は変えられます」

GOENがA社と一緒につくったのは、研修プログラムではない。「育つ文化」をつくる仕組みだ。

1年目:「安全な場」をつくる

まず取り組んだのは、悪い情報を上げても怒られない空気づくり。週1回の15分ミーティングで「今週うまくいかなかったこと」を共有する場を設けた。最初は沈黙が続いた。でも、日本人管理者が先に自分の失敗を話すようになってから、少しずつ声が出るようになった。

2年目:「考える余白」を設計する

次に、指示の出し方を変えた。「これをやって」ではなく「この問題、どうすればいいと思う?」と問いかける。最初は「分かりません」という答えばかり。でも、3ヶ月後、ある班長が「私はこう思います」と言い始めた。Mind-Upの芽が出た瞬間だった。

3年目:「仕組み」に落とし込む

最後に、属人化していた業務を「見える化」した。駐在員の頭の中にあった判断基準を、現地マネージャーと一緒にマニュアル化。「任せているようで任せていない」状態から、本当に任せられる状態へ。

3年後のベトナムのA社:何が変わったのか

具体的な変化を挙げる。

Before(3年前)

・朝礼で「問題ありますか?」と聞いても沈黙

・駐在員が休むと生産ラインの判断が止まる

・年間離職率22%

After(現在)

・朝礼で班長から「昨日のB工程の件、こう対応しました」と報告が上がる

・現地マネージャー2名が生産会議を主導

・年間離職率9%

数字だけではない。A社の人事部長が言った言葉が印象的だった。

「前は、研修のたびに『何を教えるか』ばかり考えていました。今は『どうやって気づかせるか』を考えるようになりました」

これは、育成観そのものが変わったということ。GOENが言う「成長の第3層」——意味構造の変容——が、人事部長自身に起きていた。

なぜベトナムのA社は変われたのか:3つのポイント

A社の3年間を振り返って、成功の要因を整理する。

1. 経営者がコミットした

社長が「3年かけて変える」と決めた。途中で成果が見えにくい時期もあったが、「続ける」と言い続けた。
育つ文化は、トップの覚悟なしにはつくれない。

2. 「量のOS」と「筋のOS」の違いを理解した

日本人管理者が、ベトナム人スタッフの判断基準を「間違い」ではなく「違うOS」として捉えるようになった。
これだけで、現場の摩擦が大きく減った。

3. 研修を「点」ではなく「線」にした

年1回の研修を、月1回の振り返りセッション+日常の問いかけに変えた。学びが現場に染み込む時間をつくった。

よくある質問

Q1. 3年は長すぎる。もっと早く成果を出せないか?

A1. 短期で行動変容を起こすことは可能です。ただし「文化を変える」には時間がかかります。
A社の場合、3ヶ月目で「朝礼の空気が変わった」という変化は見えました。小さな変化を積み重ねることで、
結果的に3年で大きな変化になりました。

Q2. 現地スタッフが「考えること」に慣れていない。どこから始めればいい?

A2. まずは「問いかけの習慣化」から始めてください。「どう思う?」と聞いて沈黙が続いても、
30秒待つ。最初は答えが出なくても、「聞かれる」経験が蓄積されると、少しずつ声が出るようになります。A社では3ヶ月かかりました。


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