ベトナム現地化経営コラム :「階層別研修」を導入したい会社が本当に求めているもの

10-29-2025

1. 「階層別研修をやりたい」という声の背景

最近、日系企業のベトナム現地法人から「階層別研修を導入したい」という相談をよく受けます。
しかし、詳しく話を伺うと、多くの企業が本当に求めているのは研修そのものではなく、「組織の考えをそろえること」です。

設立当初から日本人が主導してきた組織が、現地マネージャー主体に移行していく過程で、次第に共通認識が崩れていく。
部署ごとに判断基準が違い、報告・相談・意思決定のスピードにもムラが出る。
結果として、「同じ会社なのに、方向が揃っていない」という現象が起きているのです。

2. 会社の“ズレ”は、言葉のズレから始まる

たとえば、経営層が「利益率を上げよう」と言っても、現場では「売上を伸ばせばいい」と解釈して動いてしまう。
「品質を守ろう」と言えば、“不良を減らすこと”と受け取る人もいれば、“スピードを落としてでも慎重にやること”と考える人もいる。

同じ言葉を使っていても、意味が違う。
この言葉のズレこそが、現場の混乱や判断のバラつきを生みます。
だからこそ、階層別研修の目的は「教えること」ではなく、“共通言語をつくること”にあるのです。

3. “階層”とは、上下関係ではなく「視点の違い」

階層別研修というと、「役職ごとの教育」と捉えられがちです。
しかし、本来の意義は、階層による“視点の違い”をそろえることにあります。

経営層は「方向性」を、マネージャーは「仕組み」を、現場は「実行」を担う。
この3層がそれぞれの視点で同じ目的を見て動く状態こそ、強い組織です。
ところが実際には、経営が語る“未来”と、現場が見る“日常”の距離が遠く、ミドル層がその翻訳役を果たしきれていません。

階層別研修の本質は、この翻訳の回路をつくることにあります。

4. “研修”を、経営と現場の「再定義の場」にする

「階層別研修をやりたい」と考えるとき、まず立ち止まって考えてほしいことがあります。
それは、“何をそろえるための研修なのか?”という問いです。

単に階層ごとにテーマを分けるのではなく、
「経営の意図をどう伝えるか」「現場の課題をどう上に上げるか」という往復の仕組みを設計する。
そうして初めて、研修は“学習の場”から“経営の再定義の場”に変わります。

階層別研修とは、教えるための場ではなく、会社全体をひとつの方向に向け直すための場なのです。