“量”思考からベトナム人マネジメントを考える

06-21-2025

「なぜベトナム人はすぐ辞めるのか?」「なぜ自己評価が高いのか?」「なぜ仕組み化が苦手なのか?」
これらは、日本人経営者がベトナムで現地マネジメントに取り組む中で、頻繁に直面する疑問ではないでしょうか。

田中信彦著『スッキリ中国論〜スジの日本、量の中国〜』は、こうした問いに対し、
“量”という補助線を引くことで、行動や思考の背後にあるロジックを明快に捉える視点を与えてくれる一冊です。

「スジ」よりも「量」で動くという現実

本書では、中国人の判断基準は「制度や理屈(スジ)」ではなく、「どれだけ影響があるか」「どれだけ得か」
といった“”であると明快に示されます。

制度が未整備でも「まず動く」、うまくいけば「あとから制度化すればよい」という発想は、
混乱ではなく合理性に基づく行動様式です。
これは、「整っていなければ動けない」という日本的発想とは対照的であり、
実利優先の柔軟な現実対応といえるでしょう。

この「量思考」は中国だけの特性ではありません。
政治体制や社会構造に共通点の多いベトナムでも、極めて似た傾向が見られます。
形式や手順に頼るのではなく、今この瞬間に“どれだけ意味があるか”を重視する姿勢は、
ベトナム人マネジメントの現場でもしばしば観察されるものです。

“量思考”を支える構造的背景

本書は、中国社会の行動原理を、単なる文化的な癖ではなく制度・歴史・思想に根ざした構造的特徴として描いています。
儒教的価値観、集団主義、人治的制度──これらが支えるのは、法やルールを“守る対象”ではなく、
“うまく使うための道具”とする考え方です。

著者は、「制度に合わせて動く」のではなく、「まず動いて、必要に応じて制度が追いつく」という順序が一般的であるとし、
その具体例を豊富に示しています。

これはまさに、ベトナム社会におけるマネジメントの難しさとも重なります。「なぜ仕組み通りに進められないのか?」
という問いの背後には、思考構造そのものの違いがあるのです。

ベトナム人理解につながるヒントとなる一冊

中国とベトナムは文化も民族も異なります。しかし、社会主義体制、儒教的価値観、現場主義的な柔軟さ
という共通の構造を持っているからこそ、「量思考」という視点はベトナム人理解へのヒントになるのです。

本書を通じて、「なぜ伝わらないのか」「なぜ仕組みが通じないのか」といった悩みを、「個人の能力」
ではなく「判断基準の構造の違い」として理解することができます。

マネジメントにおける違和感を言語化し、日本人、ベトナム人、両者にとって
より良いマネジメントを追求するための一手を考えるための思考ツールとして、
『スッキリ中国論』は非常に実践的な一冊です。

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