ベトナム現地化コラム: なぜ給与を上げても離職率は下がらないのか

11-24-2025

1. 離職率上昇の誤解

多くの日系企業は、ベトナムの離職率の高さを「給与」「福利厚生」「待遇」の問題と捉えがちです。
しかし実際には、給与アップだけで離職率が改善した企業はほとんどありません。
例えば、ベトナム・製造業C社では、給与水準を市場比で15%高めたものの、翌年の離職率は32%から30%にしか改善しませんでした。その後、成長機会の可視化・階層別研修の導入を行ったところ、さらに翌年には16%に低下しています。

2. 離職を引き起こす構造的要因

ベトナムの若手社員が離職を検討する背景には、個人の問題ではなく“組織設計の不備”が深く関わっています。具体的には次の3点です。

  1. 役割の曖昧さ:自身の業務範囲が不明確で、成果基準も設定されておらず、達成感が得られない。

  2. 成長実感の欠如:任される仕事が変わらず、学びや挑戦の機会が少ない。

  3. 上司との対話不足:ベトナム人スタッフには「認められたい」「成長したい」という欲求が強い一方、日系マネージャーとの1on1やフィードバックが定期的に行われておらず、心理的距離が生じています。
    これらは、離職意向と相関があるという実証研究もあります(例:Y Yang 他 2024)eprints.bournemouth.ac.uk

3. 離職を防ぐ鍵は“役割 × 育成 ×対話”の設計にある

実際に離職率を大きく改善したベトナム法人では、共通して以下のアプローチが取られています。

  • 役割の明確化:スタッフ・リーダー・係長それぞれに「何を任せるか」「どこまで決めるか」「何に責任を持つか」を明文化。

  • 成長ステップの可視化:階層別研修を年間カリキュラムとして提供し、スタッフに「次はこの研修を受けられる」「次のポジションに進める」というロードマップを示す。

  • 上司との対話機会の設定:週1〜月1の1on1面談を導入し、「できたこと」「課題」「次の目標」を対話形式で継続。
    こうした取り組みによって、サービス業D社では離職率が年間38%から15%に低下したという報告もあります。

4. 離職率改善の成功例

  • 製造業C社:給与を15%上げても30%台の離職率 → 研修+階層設計+1on1導入で16%へ。

  • サービス業D社:若手離職の6割が「成長実感がない」理由→ 階層別教育+OJT制度で半年で約40%改善。
    離職改善は「給与を上げる」だけではなく、“仕事の意味を感じられる構造”をつくることによって初めて効果が出ます。

5. まとめ:離職は“人材”の問題ではなく“組織のOS/設計”の問題である

ベトナム人スタッフの離職は、性格や待遇だけで語れるものではありません。
むしろ、組織が「役割」「成長」「対話」の設計を欠いているために起こります。
階層別研修は、これらを同時に実現できる強力な仕組みです。
構造を整え、教育を設計し、経験を与えることで、離職率は確実に改善します。
ベトナム現地法人の定着支援を検討されている場合には、ぜひこの流れを意識してください。


出典:

  • Yang Y., “Turnover Intention among Vietnamese Millennials in the Workplace,” 2024. eprints.bournemouth.ac.uk

  • Reeracoen Vietnam, “What Vietnamese Workers Want in 2024 Survey,” August 2024. hr.asia