ベトナム現地化経営コラム:「“できる人”が壁になる瞬間」

08-25-2025

優秀なベトナム駐在員ほど陥る落とし穴

ベトナム現地法人の現地化を進めるうえで、多くの駐在員が口を揃えて言う悩みがあります。それは「現地スタッフに任せても、自分の思うレベルで成果が出てこない」というものです。結果として、日本人マネージャーが自ら前に出て業務を引き取ってしまい、現地スタッフは育たない。この悪循環が組織の現地化を阻むのです。日本人駐在員の中には、現場を深く理解し、高いスキルを持つ人が少なくありません。だからこそ「自分がやった方が早い」「自分がやった方が正確だ」と考えてしまいます。特に成果責任を負う立場では、「筋の通ったやり方」で確実に進めたい気持ちが強く働きます。そのため、少しでも不安があれば自ら介入してしまうのです。

スタッフの受け止め方

ところが、駐在員にとっては「正しい方法を示した」つもりでも、現地スタッフには「自分の判断は信用されていない」と映ります。任せたはずの仕事に口を出されるたびに、スタッフは「結局、任せても意味がない」と学習してしまいます。これは単なる誤解ではなく、彼らの成長機会を奪う構造的な問題です。結果として、駐在員は「筋を通した」と安心し、スタッフは「主体性を発揮するだけ無駄」と感じるという、大きなギャップが生まれます。

「量」と「筋」の思考の違い

この背景には文化的な思考差もあります。田中信彦氏『スッキリ中国論』が指摘するように、アジアでは「とにかく課題を片付ける=量」の思考が根強い。ベトナム人スタッフも、与えられたタスクを素早く処理することを重視します。一方、日本人駐在員は「筋」=プロセスの正しさや仕組み化を求めます。両者の違いが、任せる・任される関係を難しくしているのです。

ベトナム駐在員が果たすべき役割

大切なのは、「できること」と「やるべきこと」を区別することです。駐在員が本当にやるべきことは、目先の仕事を完璧にこなすことではなく、現地スタッフが自ら考え、判断し、動ける仕組みをつくることです。短期的に成果が落ちても、長期的には「育つ機会」を奪わないことが、組織の自律化につながります。

ベトナム現地化経営まとめ

現地化は、駐在員がすべての答えを出すことからは始まりません。むしろ、スタッフに任せ、失敗させ、そこから一緒に学ぶことが現地化の第一歩です。“できる人”があえて一歩引く勇気こそ、現地化を進めるための最大の貢献なのです。